古文書公開日記79ー鉄炮を撃った戦国時代の女性ー

軍記物語「犬甘代々古老夜話集」(17世紀 当館寄託)を紹介致します。

 犬甘氏は信濃守護小笠原長時の家臣で犬甘城(松本市蟻ヶ崎台)城主犬甘政徳の曾孫政知によって書き始められた聞き書きです。墨書59丁の竪帳の袋とじ本で、巻一から三までを一冊にまとめています。巻一・二は信濃国松本藩主だった小笠原秀政の家老だった半左衛門政知の時代の聞き書きをおもに記しています。巻三は秀政・忠脩父子が大坂夏の陣で没した後、跡を継いだ忠真が明石(兵庫県明石市)、小倉(福岡県北九州市)へ移ったあとの記述を掲載しています。

 軍記物としては巻一・二は、慶長19(1614)・同20年(1615)の大坂夏の陣を中心に記していますので近世軍記に分類できます。内容は『新編信濃史料叢書』12に掲載されています(本書はその原本と考えられます)。興味深い逸話が多く載せられています。

 その一エピソードを紹介します。女性が鉄炮を使用した話が載せられています。

 一 小笠原山城殿奥方法名安貞、信濃にて没落の時、正休老二歳  

 之時、ふところに入、下女に鉄炮をもたせ、馬にて立退申されけ

 るに、敵落人と見てはぎとらんとて、四五人あとをしたひける 

 に、馬上より下女にもたせ候鉄炮を取、二はなし打されけれは、

 敵是におはれて其後はしたはす静に立退しと也、むかしは女性に

 てさへ如此のはたらき有しと也

 小笠原長時の弟信貞の子で家臣の小笠原長継の妻安貞が信濃から没落する際の記事です。長継の子政直(法名正休)がまだ2歳の幼児であったということです。政直を懐に偲ばせ下女に鉄炮を持たせて馬で逃げたという話。敵は落ち武者だと思い四・五人で追尾してきたといいます。妻は下女から鉄炮を受け取って、二発放ったということです。鉄炮に追われて静かに立ち去った、と言うエピソード。犬甘半左衛門は、鉄炮をこのように女性が使っていたのだと昔を回顧しているのです。

 太平の世の江戸時代、戦国期の軍記を記すことが流行します。先祖や当人の武功を後世に残そうとするオーラルヒストリーの走りと言えますね(村石正行)。

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