古文書公開日記48 ーコロリ予防法ー

 ある古書店から南信地域の蘭方医関係の文書を購入いたしました。これから目録取りを進めていきますので全体像はまだ不明です。これから整理を進めながら次第に様子がわかってくると思います。
 さて、いまだCOVID-19(新型コロナ)の感染が広がり、ちまたでは第四波が到来しているというのがもっぱらの観測です。対策の最大の目玉はワクチン。これから順次、接種が本格化していくということです。
 江戸時代も感染症への対策はおおきな社会的な要請があったと思います。今回購入した文書群のなかに数通のチラシが含まれていました。曰く「コロリ予防法」。

 これによれば
   酢を土鍋に入れ火にかけ煮たてながら家の内間ごとをもちあるき、家内中匂ひをかぐべし。日三度くらい度々するほどよし。
 とあります。煮沸した酢の匂いを嗅ぐというのです。ついで
   圊(せっちん=トイレ)には酢を茶碗に入れ杉の葉にて中のかべにふりかけてよし。
 と予防法を書いてあるのですが、一番は
  腹を冷やさず寝冷えせぬ用心

 というのですから、腹を冷やすな、というのが一番の予防。
 発病したらどうするか。
  下痢するようなりとも取はずすつもりにて圊へ入るべからず
 と下痢をするからといって、むやみに取り外す(粗相する)つもりでトイレへ行ってはならない、と述べ脱水を戒めます。もし脱水状態になったら「氷角散」という氷砂糖と角石を調合した薬を粉末にして水で含ませる、などと記されています。このほか大酒・大食のほか生かき・青棗は「大毒」だそうです。
 なお出版元の百華園は、飯田の漢方医関島良基が開園した薬草園で、その養子良致は名古屋の蘭方医柳田凌雲に学んだ蘭方医、本草学者、出版業者でした。本文書は百華園関係の史料群です。
 このほか文化関係に江戸時代のカルタや、将棋の駒、活版の植字の一部部分も残っています。

 整理公開までにはまだ時間がかかると思いますが、医業関係の文書は、当館では諏訪郡関家文書以外はないので、貴重な情報を提供してくれることでしょう。
 なお、立川談慶『安政五年、江戸パンデミック。』(2020年8月)は、江戸時代のコロリ流行と庶民のしたたかなタフさ加減を描いた、まさに現在の「WITHコロナ」日本社会とシンクロする面白い本です。(村石正行)

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