古文書公開日記3−おもしろい古銭が出てきた!−

「南無阿弥陀仏」と刻まれている念仏銭の写真
読み方

 伊那郡三日町村鳥山家資料が寄贈され、ようやく整理が終わりました。文書だけでなく、地図や写真、絵葉書、雛道具類など多様な資料が満載されていて飽きませんでした。そのなかでコインのコレクションに面白いものがありました。鳥山家資料のなかには中国北宋からの渡来銭や、江戸時代の寛永通宝(古いタイプと新タイプ)がありましたが、何気なくみた一枚が不思議な文字が刻まれています。「南無阿弥陀仏」と時計回りに読むことができます。念仏銭とよばれているこのような銭の形をした類似品は珍しいものです。もちろんこれが物を購入する際に使用されていたわけではありません。玩具(おもちゃ)という考えもあるようですが、重みや表面のようすはまさに「銭1匁(もんめ)」そのものですので、一見すると通常の銅銭と変わらぬ精巧さです。
 江戸時代の墓の埋納された銭について集成したした鈴木公雄氏によると、17世紀後半から通常の貨幣といっしょにこのような念仏銭が墓に埋納されるようになるそうです。「三途の川の渡し賃」とよく言いますが、六道銭として知られる「6枚の銭貨を死者に持たせる」習俗(もっとも銭は6枚とは限らないようです)と関係があるのでしょうか。今でも死者の棺に紙に印刷された六道銭を封入する地域もあるそうです。似たものに「南無妙法蓮華経」と刻まれた「題目銭」もあります。
 鈴木先生によるとこの貨幣は17世紀後半から18世紀前半の中で鋳造されたらしいこと、1999年の段階で大都市の近世墓から全部で300枚以上見つかっているそうですから、全国でもっとたくさん広まっていたことが想像できます。亡くなった死者を無事極楽浄土へ送ってあげるために考案された江戸時代ならではのコインではないでしょうか。興味のある方は鈴木公雄『出土銭貨の研究』(東京大学出版会、1999年)をご参照下さい。歴史館の閲覧室でも読めます。

歴史館ブログ

ページ先頭へ戻る