木器処理室より
歴史館1階の奥まった部屋では、粘り気のあるこげ茶色の液体に白い粉を混ぜ、なにやら怪しげな溶液を作っています。実は、秘かに永遠の若さを保つための魔法の薬を調合?・・・しているわけではありません。
これは、PEGと呼ばれる合成樹脂で、水槽の中には遺跡から掘り出された木器が沈んでいます。土中で保存されていた木器は、発掘された瞬間から空気に触れて酸化し、乾燥が進んで変形したり、細菌などの攻撃を受けて、急激に劣化します。浦島太郎が海から戻って、玉手箱を開けてしまった状態だと想像してください。
そこで、木の細胞壁内に残っている水分などをPEGに入れ替えて固定させ、形が崩れるのを防ぐのです。写真の液体は、永遠の若さを保つ・・・とまでは行きませんが、木器がこわれていくのを食い止めるための溶液だったのです。
ただし、いきなり水分をPEGに置き換えることはできないので、2年近くかけて20%から40%・・・と徐々にPEGの濃度を上げ、木器に染み込ませていきます。水槽全体を80%から100%溶液にするためには、毎日の手作業で1ヶ月近くかかる場合もあります。夏場は、気温35℃を越え、湿度は60%以上になる室内で、作業は続きます。体力と忍耐力と、「文化財を守るぞー」という強い意志が勝負になります。
木器が2階で、「展示室デビュー」を飾るためには、最低でも2年間、木器処理室で地道な準備を重ねなくてはならないのです。